黄銅の溶接事例(薄板・異種金属など)

黄銅(真鍮)は水栓金具や装飾部品だけでなく、EV 用バスバーや精密コネクタなど電装分野でも採用が拡大しています。導電性と加工性を両立しつつ、耐食性や意匠性にも優れることが評価されているためです。

しかし、真鍮を溶接する際には 亜鉛の蒸発に起因するポロシティや有害ヒュームの発生など、アルミなどの他の金属とは異なる難しさが伴います。特に薄板や異種金属との接合では熱制御がシビアで、強度低下を招きやすい点が課題です。​

当社では薄板、小物の部品の溶接を得意としており、黄銅+銅、ニッケルなどの異種金属接合まで幅広く対応いたします。ぜひお気軽にご相談ください。

黄銅の溶接事例

黄銅(真鍮)0.3㎜+純銅アルミ0.2㎜(二重構造)

 

黄銅の融点は800℃前後、純銅アルミ(二重構造)の融点は不明ですが純銅の融点が1085℃、アルミの融点が660℃になります。

溶接条件(電圧・時間・加圧)は比較的簡単に出ました。アルミが入っている接合での溶接条件はノウハウが必要です。

他の金属(ニッケル、ステンレス、銅等)と異なる設定を行う必要があります。

(引張試験機での引張強度) 3㎏ 29.4N (破断状態) 2/2

黄銅(真鍮)の接合の難しさ

黄銅(真鍮)は銅に亜鉛を加えた合金で、導電性・加工性・意匠性に優れる一方、溶接となると次のような理由で鋼やアルミより難易度が高くなります。

■ 亜鉛の蒸発によるポロシティとヒューム

亜鉛は 907 ℃で沸騰します。溶接温度域では亜鉛が気化しやすく、溶融池にガスが巻き込まれて気孔(ポロシティ)が発生したり、溶接ヒューム中に酸化亜鉛が大量に含まれます。​

■ 高亜鉛系真鍮のホットクラック(熱割れ)

亜鉛含有量が高いほど凝固範囲が広がり、凝固終盤に低融点液相が残りやすいため、収縮応力でホットクラックが発生しやすくなります。​急冷を避け、プレヒート+徐冷やパルス通電で熱勾配を緩和する工夫が必要です。

■ 熱伝導率が高く熱が逃げやすい

銅成分が多いため熱伝導率は鋼より高く、局所加熱が難しい上に母材全体が過熱しやすくなります。結果として歪み・焼け色が出やすく、熱入力の制御がシビアです。​

■ 酸化・脱亜鉛による表面劣化

溶接時の高温で亜鉛が選択的に酸化・蒸発すると表面組成が銅リッチになり、後工程のろう付けやめっきで密着不良が起こることがあります(脱亜鉛現象)。​

■ 液体金属脆化(LME)のリスク

溶接中に溶融した亜鉛が粒界に浸透すると、母材が脆化して亀裂が進展しやすくなる「液体金属脆化」が報告されています。特にスポット溶接や高強度鋼との接合で顕著です。​

■ 電極付着・摩耗(抵抗溶接の場合)

真鍮は軟らかく電極への付着が起こりやすいため、Cu‑Cr や W‑Cu 電極を頻繁にドレッシングしないと電流密度がばらつき、溶接品質が不安定になります。​

■ 異種金属接合での金属間化合物

真鍮とアルミ・ステンレスなどを溶接すると、Cu‑Al や Cu‑Fe 系の脆い金属間化合物が生成しやすく、接合強度を低下させます。熱入力を極力抑える短パルスやインサート材の併用が求められます。​

黄銅(真鍮)と異種金属の接合

黄銅(真鍮)+銅

黄銅側に含まれる亜鉛は 907 ℃で沸騰しやすく、溶接温度域に入ると急激に蒸発して気孔(ポロシティ)を生じたり酸化亜鉛ヒュームを発生させたりします。さらに、蒸発によって接合部が銅リッチになると硬化・脆化が進み、機械的強度が低下しやすくなります。銅は非常に熱伝導率が高いため、熱が銅側へ逃げて黄銅側だけが過熱するアンバランスも起こりがちです。その結果、黄銅表層での過溶融や突き抜け、あるいは内部での亜鉛欠乏層形成による割れが問題になります。また、抵抗溶接では軟らかい黄銅が電極に付着しやすく、電流分布の乱れや電極摩耗が早期に発生して接合の再現性を損ないます。

黄銅(真鍮)+ステンレス

黄銅とステンレスでは融点が約500 ℃以上離れており、電気抵抗や熱伝導率も大きく異なります。このため熱入力を加えると、ステンレス側が十分に加熱されないうちに黄銅側が先に溶融し、界面に脆い Cu‑Fe 系あるいは Zn‑Fe 系の金属間化合物が局所的に生成しやすくなります。これらの化合物は靱性が低く、せん断荷重や熱疲労に対して割れを誘発する主要因となります。さらに両材の線膨張係数の差が大きいため、冷却時に引張残留応力が界面へ集中し、熱割れや剥離を助長します。亜鉛の蒸発・酸化によるヒューム問題と、ステンレス側でのクロム酸化皮膜生成が同時に進むことで、接合部が不均一に酸化し電気的・機械的特性が不安定になる点も無視できません。最後に、両金属の電位差によって接合界面がガルバニックセルとなりやすく、湿潤環境下では選択的腐食や孔食が発生して長期信頼性を損なうリスクがあります。