アルミ(合金)の特性と溶接への影響
アルミニウムは純金属として非常に軽量で加工性に優れていますが、その反面、強度や硬度に課題があります。この弱点を補うために、ニッケルや銅、マグネシウム、シリコンなどの元素と合金化することで、強度、耐食性、熱伝導性などの特性を調整しています。
一方で、溶接においていくつかの課題が存在します。
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融点が低い(約660℃)ため、加熱しすぎると過溶融のリスクがあります。
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電気抵抗が低く、ジュール熱が発生しにくいため、抵抗溶接では大電流が必要となります。
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熱伝導率が高く、加熱が広がりやすいため、局所加熱が難しくなります。
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表面に酸化膜が形成されやすく、この膜が溶接性を妨げることがあります。
これらの点を考慮しながら、アルミの溶接では適切な熱管理と機械的制御が求められます。
抵抗溶接の原理
抵抗溶接(Resistance Welding)は、上下の電極で材料を挟み、電流を流すことで接触部分に電気抵抗によるジュール熱を発生させ、材料を局所的に加熱・加圧して接合する方法です。
この溶接方法には、スポット溶接、シーム溶接、プロジェクション溶接などのバリエーションがありますが、薄板材料に対してはスポット溶接が一般的です。
アルミ薄板における抵抗溶接の特徴
アルミ合金の抵抗溶接には、鋼板などと比較して以下のような特性があります。
1. 高電流の必要性
アルミは電気抵抗が非常に低いため、ジュール熱を十分に発生させるには鋼の3〜5倍程度の電流が必要になります。特に今回のように板厚が0.15mmと非常に薄い場合には、電流が大きすぎると材料が損傷するリスクもあり、加熱量の微調整が重要となります。
2. 高熱伝導率
アルミは熱が広がりやすく、溶接部以外の領域にも熱が逃げやすいため、局所的な加熱を実現するには、短時間で集中的に電流を流せる設備が必要です。
3. 酸化膜への対応
アルミの表面は自然に酸化膜が形成され、この膜は非常に安定していて融点も高いため、溶接を阻害する要因となります。そのため、溶接前に研磨や薬品処理によって酸化膜を除去しておく必要があります。
4. 電極の摩耗
高電流を流す必要があるため、電極が摩耗しやすくなります。特にアルミは柔らかいため、電極の密着性や摩耗の影響が大きく、クロム銅やタングステン銅といった高耐久材料の電極を使い、定期的な点検とメンテナンスを行うことが重要です。
異種金属との接合との比較
アルミと銅といった異種金属の溶接は、アルミ合金同士の接合に比べてさらに難易度が高いです。これは以下のような理由によるものです。
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融点の差が大きい(アルミ:660℃、銅:1085℃)
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熱伝導率や電気抵抗の違いによりヒートバランスが取りにくい
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接合部に脆性の金属間化合物(Al-Cu化合物)が形成されやすい
このような要因により、異種金属の接合では適切な制御を行わないと、接合強度が極端に低下してしまう可能性があります。
実際の薄板アルミの抵抗溶接
1. 電極加圧力の適切な設定
電極加圧力は、溶接部の接触抵抗を制御し、適切な発熱と溶接品質を確保する上で重要な役割を果たします。加圧力が高すぎると、接触抵抗が低下し、発熱不足となり、溶接強度の低下を招く可能性があります。一方、加圧力が低すぎると、過度な接触抵抗が生じ、過剰な発熱やスパッタ(溶融金属の飛散)を引き起こす可能性があります。
特に薄板アルミの場合、材料の変形や突き抜けを防ぐために、加圧力の微調整が必要です。適切な加圧力を設定することで、溶接部の品質と強度を確保できます。
2. 通電時間の適切な調整
通電時間は、溶接部の加熱量を制御する重要なパラメータです。適切な通電時間を設定することで、溶接部の品質と強度を確保できます。
また、通電前後のホールド時間(加圧保持時間)を適切に設けることも重要です。通電前のホールド時間は、電極と被溶接材の安定した接触を確保し、通電後のホールド時間は、溶融部の冷却と凝固を促進し、内部応力の緩和と接合強度の向上に寄与します。